
結婚式の記念写真のような絵だが、違和感がある。
この世の事物の縮尺や遠近感が狂ってしまった、不器用で不条理の世界。
正面を見据える花嫁に笑みはなく、体は浮遊しているような感じで、これから異世界にでも嫁いで行きそうな雰囲気がある。
後列の右にいる、髭の男がルソー自身だといわれるが、知らぬ間に記念写真に割り込んできた、謎のおじさんのような感じもする。正面の黒い犬は、婚姻の見届け人であるかのように不思議な存在感を示している。
「自然以外に私の師はいない」
オンリーワンとは、誰も追っかけてこられないほど、他人をぶっちぎってしまった存在のことだと思う。
ルソーの絵は、凛とした孤高の香りがする。
美術アカデミーにも学ばず、理論もなく、特定の流派にも属さず、自分だけの謎の絵画世界をひらいた。
40歳を過ぎてから初めて絵を発表した。
場所は、金さえ払えば誰でも出展できる独立芸術家(アンデパンダン)展だったという。
ルソーが師とした自然の姿は、ルソーの脳内世界で奇妙に着色され、再構成されたに違いない。
アンリ・ルソー Henri Rousseau 1844-1910年,フランス
「結婚式」1905年