アドルフ・ヒトラーは、マルクの絵を観て「青い馬などいない」と一言で切り捨てたという。ヒトラーも若い頃は画業を志したといわれるが、古典的な風景画などを描いていた。ヒトラーの性格というか、価値観がよく表れているエピソードだと思う。
ラスコーやアルタミラの動物絵画には、時空を超えてくるような動物の妖気が漂うが、マルクの描く世界にも自然の濃い精気を感じる。
「妖精」というものが本当にいるのかどうかは知らないが、たとえば大昔に自然の精気を感じた(らしい)人が、いまに伝わる「妖精」の姿として表現したのかもしれないし、マルクもまた独特の色彩感覚でもって自然の精気を描き写したのかもしれない。
フランツ・マルクは1880年、ミュンヘンに生まれた。
父親は風景画家だった。
ミュンヘン美術アカデミーで学んだのち、動物画家ニースレと出会う。さらに後期印象派、日本の浮世絵などに触れることで、動物をモチーフとした独自の画風をめざすようになる。
1911年、カンディンスキーの主催する新芸術家協会に参加。
ドイツ表現主義のグループ「青い騎士」の重要メンバーのひとりとして年鑑の編集や展覧会の企画に関わる。
第一次世界大戦で召集され、ヴェダンの戦いで戦死した。享年36歳。
Little Blue Horse, 1912
フランツ・マルク Franz Marc
1880-1916年,ドイツ