
「女の手や足が私の心を捉えます」
女の体のどの部分に女を感じるのかは人それぞれだと思うが、それが胸や尻だとふつうで、背中だとやや通人、手や足となるとフェティシズムの世界に入るのかもしれない。
細く、なまっちろい蝋人形のような手足は、ただそこにあるだけでも艶めかしいが、さらに獣の肌触りを加えるとどんな感じか。女が犬を抱く肌触り。あるいは女に抱かれる感触。女になるか、犬になるか。考えただけでも妖しい。犬も女もなにもかも絡み合って、幻じみた世界に溶けてゆく。魅せられて、二次元に閉じこめられ、二度と出てこられなくなる。色と詩の世界の住人となる。
マリー・ローランサンの母親は1883年、パリの町で私的にマリーを産んだという。つまり未婚だった。家政婦をしながら育てた。のちにマリーの恋人となる詩人のアポリネールも父親を知らない人だったらしい。マリーは高校卒業後、アカデミー・アンベールで絵を学び、ブラック、ピカソらとも交遊を深めた。
恋人アポリネールと別れたのち、ドイツ人男爵と結婚。第一次世界大戦中は敵国人となりスペインに亡命した。離婚後、パリに戻り独自の画風をひらいた。
マリー・ローランサン Marie Laurencin 1883-1956年 フランス