2006年09月03日

ルネ・マグリット「大家族」

大家族(70×100cm) 

嵐の前のような暗い空が鳥のかたちに切り抜かれ、そこだけ晴れているこの絵の何が「大家族」なのだか?

マグリットは、描いてしまったあとで絵の題名を考えたといわれる。
最終的に「大家族」としたのだろうが、実は他にもこの絵のタイトルとして考えていた候補がいくつかあったらしい。

たとえば英国の作家ジョセフ・コンラッドの小説の題名「ロード・ジム」。
一等航海士のジムは、遭難した船を見捨て、800名の乗客を残したままボートで脱出してしまった。これは、重い悔恨を背負ったジムの、その後の人生を描く小説である。
「ロード・ジム」などという題名をつけられていたら、鑑賞者は、また考え込まなければならなかったかもしれない。
偉大な海の英雄に憧れながらも、土壇場で、弱い自分を見せつけられてしまった男。
勇気が反転して怯懦。晴れと曇り。

他に「招待者」というタイトルも考えていたらしい。
これだと、ちょっと怖い。
暗い空が割れて巨大な鳥が現れ、どこか異次元の世界に招待されそうな怖さがある。

そして「大家族」だが、マグリットの絵のタイトルは、まるで、なぞなぞのようである。
「これはパイプではない」という「パイプを描いた絵」のように、哲学的な意図がなんとなくわかるものもあるが、「大家族」は意味不明である。

マグリットはある種のイメージが人間に与える謎に興味があったらしい。
何を与えられるかは人それぞれだろうと思う。
また、イメージと言葉の関係を探求し続けたともいわれる。
マグリット絵画における題名(言葉)とビジュアル(絵)の組み合わせは、ときにあり得ない。
日常の感覚ではあり得ないような事物の組み合わせを提示し、違和感や不安、もしくは陶酔感などをもたらすシュルレアリスムの表現手法に「デペイズマン」というものがある。
マグリット絵画における言葉と絵の組み合わせも、この「デペイズマン」なのかもしれない。

「デペイズマン」に惑わされながら、「デペイズマン」を楽しむのが面白いと思う。


posted by アートジョーカー at 05:05| Comment(0) | Rene Magritte | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月22日

マグリット「描かれた青春」

La Jeunesse IllustreeLa Jeunesse Illustree

映画や小説では対立というものがストーリーやテーマの核をなす場合がある。
できるだけ異質なもの、異質な人物をぶつけ合うことで物語が立ち上がってくることが多い。

たとえば林檎がバナナやナイフといっしょに描かれていればふつうである。
しかし林檎がバスルームにぽつんと置かれていれば、なにか特別な意味がありそうな気がする。
それも死体といっしょにだ。
映画や小説なら探偵が出てきて、そこから「ミステリ」の謎解きが始まる。
時間内に、あるいは決められた紙数の中で謎は解決されるだろう。

たとえば田舎道に石膏像が置かれていたら、人は考え込む。
それも生きたライオンの前にだ。
しかしマグリットの絵に解決はない。
奇妙な違和感、もしくは驚きがあるだけである。
神秘の物語は鑑賞者自身がつむぐしかない。

ルネ・マグリット  Rene Magritte 1898-1967年,ベルギー
posted by アートジョーカー at 05:28| Comment(0) | Rene Magritte | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月20日

ルネ・マグリット「心の琴線」

La Corde SensibleLa Corde Sensible

日常の事物が異様に巨大化していたり、あるはずのない場所に物が転移していたりすると、心がつねられたような気がする。ちょっとした痒みを覚える。

雲がグラスに収まろうとしている。
あるいはグラスから逃れようとしている。
雲はじっとさせられているのをちょっと嫌がっているのかもしれないし、少し恥ずかしがっているのかもしれない。
芸者ワルツの歌詞ではないが「恥ずかし嬉し」という微妙な心が現れているような気もする。

マグリットの絵の中に何かの象徴を見つけようとしても無駄なことであると思う。
マグリット自身、象徴を探さないでほしいと言っている。
絵の中に暗喩などもないのである。

 僕は雲を集めようと思って、
 霜の巨人のように大きなグラスを大地に置いた。
 雲が少しずつ集まってきた。
 ある雲はいそいでやってきた。
 ある雲はゆっくりとやってきた。
 僕のグラスには毒が塗ってある。
 甘い香りのする毒だ。
 雲たちは大きな塊になって、
 僕のグラスの上で、嬉しそうに恥ずかしそうに震えていた。

上の下手くそな詩は、いま適当につくったものである。
マグリットは、自身を詩人と規定し、「言葉では語れない詩」を描いた。
ビジュアルそのものが「心の琴線」を引っ掻いてきて、首を傾げさせる。
不思議な「違和感」の残像が残り続ける。

ルネ・マグリット  Rene Magritte 1898-1967年,ベルギー
posted by アートジョーカー at 13:14| Comment(2) | Rene Magritte | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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