
「私生活を覗かないでね」
昔、そんな広告コピーがあった。商品はブラインドだった。
都市の人間の多くは、蜂の巣のような建物に棲んでいる。
中の個室はそれぞれのプライベートな空間で、隣人の顔を知なくてもいいかわりに、けっして干渉してはならない。
しかし、隣では殺人鬼がナイフを研いでいるのかもしれないし、すぐ下の階では美女が着替えをしているのかもしれない。
それを覗き見たいと、奇妙な好奇心を起こす人もいる。
江戸川乱歩の小説に「屋根裏の散歩者」というのがあるが、ホッパーは夜の街の散歩者だったようだ。
ホッパーにとって街のあちこちに灯る光は、誘蛾灯のようなものだった。
深夜のバー、ドラッグストア、アパートメントの窓……。
夜のさまざまな色の光を求めてホッパーは彷徨ったらしい。
「夜の窓」1928年
エドワード・ホッパー Edward Hopper 1882-1967年,アメリカ