

現代人は自動化、機械化によるさまざまな恩恵にあずかっている。
もしも、ある大量生産品を人間の手で作ってみるとしたら、途方もない時間と労力がかかるはずである。
リキテンスタインは、たとえば印刷というシステムによって大量生産されることが前提だったコミックを、自分の手で作ってみた。
コミックには約束事がたくさんあった。パターンと言ってもいい。
パターン化された表現は誰にでもわかりやすくメッセージも一瞬で伝わる。
コミック的表現という「共通認識」が確立されたスタイルをもっていたともいえる。
それは、型にはまったスター、決まり切った表現、すべてがパターン化されたポップな消費社会のスタイルそのものだったのかもしれない。
リキテンスタインは、印刷によるドットの一点一点までも大変な手間と時間をかけて極めて精密に描き出した。恐ろしくマニアックな入念さである。構図や色彩表現にもこだわり、物語を感じさせる豊かな表情も、いわゆるコミックのそれとは異なる(しかし日本漫画の表現力は凄い)。パターン化されたコミックのカタチを借りて、手作りによる一点ものの優れた芸術作品(かもしれない)を制作したのである。
リキテンスタインの絵にふれて、ある種の怖さ--町を歩くだけでは見えにくい現代社会の本質--といったものを感じてもいいだろうし、単にどんな素材でもアートに成りうるという可能性を感じてもいいだろうし、そこは自由ではないかと思う。
左の「ヘアリボンの少女」は東京都現代美術館の常設展示作品である。
印刷というシステムによる生産品を主題として描いた絵画だから、その「印刷物」よりも本物にふれてみるのがいいのかもしれない。
1994年、東京都は6億円で購入した。
都議会では「漫画に6億円も出すのか」という怒号が飛んだという。
ロイ・リキテンスタイン Roy Lichtenstein 1923- ,アメリカ
Girl with Hair Ribbon, 1965
Kiss V, 1964
The Art Impression

Mao

