2007年06月24日

ポール・セリュジエ「にわか雨」

po38.JPG

雨を描いたヨーロッパ絵画は少ない。
雨を描くことによって何事かの詩情を込めるという手法は、映画の時代に入って使われるようになったように思う。

日本の浮世絵には、よく雨が描かれている。
ゴーギャンの手ほどきを受けたポール・セリュジエは、浮世絵のなかにある雨と女と詩情とでもいった、湿気のあるテーマに惹かれたのかもしれない。
セリュジエの「にわか雨」は、鳥居清長の「雨中湯帰り」を想わせる。
清長も、鳥居派のなかでは異種ともいえる八頭身で肉付きの良い女を描いている。

傘や建物には輪郭線が描かれ、浮世絵流もしくはゴーギャン流のクロワゾニスムの影響が見られる。
「自然に輪郭線はない」
と言ったのはレオナルド・ダ・ヴィンチだが、クロワゾニスムにおいては事物の輪郭線をくっきりと描く。
全体にそれほど強い色づかいではないが、色面の対比がここちよく感じる。

「にわか雨」1893年
ポール・セリュジエ Paul Serusier 1864-1927年,フランス
posted by アートジョーカー at 12:53| Comment(1) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月13日

リチャード・ダッド「妖精の樵の見事な一撃」

The Fairy Feller's Master-Stroke

精神の訝しくなった人も、一日中狂っているというわけではないらしい。
幻影に脅かされたり、時に正気に戻ったり、此岸と彼岸を行ったり来たりしているのかもしれない。

天才と狂気の関係については、心理学者の宮城音弥著「天才」に詳しい。
激しい狂気こそが天才を引き起こすという見方もあると思うが、たとえば天才と狂気は一人の人間の中に別々に存在しているとも考えられる。
物事を深く冷静に見つめて発明や発見、あるいは芸術活動を行うのは天才の部分のみではないかということである。
仕事をしているとき、狂気は表出しない。奥深くに眠っている幻影、幻覚のようなものを冷静な天才の目で見つめ、極めて詳細に、密度濃く描いたのがリチャード・ダッドの傑作「妖精の樵の見事な一撃」ではないかとも思う。

ダッドは精神病院の中で、10年かけてこの絵を完成させたといわれる。
20才でロイヤル・アカデミー美術学校に入り、木版画による物語の挿し絵などを手がけたが、25才の頃、中近東への旅に出た。
そこで古代エジプトの神、もしくは悪魔に憑かれたような違和感を覚えたらしい。
いそぎ帰国したが、自身を失い、父親を刺殺したという。
フランスに逃亡するが、そこでも何者かの命令が下り、通りすがりの人間を刺す。
以後、40年以上の人生を精神病棟で暮らしながら、創作を続けたといわれる。

絵の中心よりやや下の方に描かれた、斧を振り上げている後ろ姿の男が妖精の樵で、大きな木の実のようなものを割ろうとしている。その右上の王冠を被った老人は魔法使いの王であるらしい。既存の文学作品ではなく、リチャード・ダッドの精神世界に実在する、得体の知れない国の物語を題材としたのかもしれない。

「妖精の樵の見事な一撃 」 The Fairy Feller's Master-Stroke
リチャード・ダッド Richard Dadd 1817-1886年,イギリス
posted by アートジョーカー at 22:42| Comment(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月12日

ドミニック・アングル「グランド・オダリスク」

The Grand Odalisque

芸術が時代を先取りするのかどうかはわからないが、少なくともある種の芸術家たちは、時代の底の方から吹いてくる風を感じるのに違いない。そうして生まれた芸術が、さらに時代の空気を創っていくのかもしれない。

マリー・アントワネットの時代、享楽的な貴族趣味のロココ様式を否定する、のちに新古典主義と呼ばれる芸術の潮流が生まれたといわれる。
それは、ギリシャ・ローマ時代の知的で論理的な観察を模範としたらしい。
緻密な描写、理想的な人体の再現といった古典様式の再評価である。
新古典主義の流れは、フランス革命からナポレオン帝政へと、時代の空気が変化する中で広がっていったといわれる。

ドミニック・アングルは、新古典主義を代表する画家である。
古典様式を超える、新しい美意識の創造があった。
同時代に対立したロマン主義の画家ドラクロアの「色彩」に対し、アングルは「線」にこだわったといわれる。
描かれた女は「背骨の椎骨が普通の人間より3本ほど多い」と批判されたらしいが、女のくねった背中がおそろしく悩ましい。
官能的な曲線の創造である。

オダリスクとは、宮廷のハレムに暮らす女たちのこと。
かつて、この世の奥深くに咲いていたらしい、妖しい花の曲線。

「グランド・オダリスク」1814年
ジャン=オーギュスト=ドミニック・アングル Jean-Auguste Dominique Ingres
1780-1867年,フランス 
posted by アートジョーカー at 15:00| Comment(0) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。