ムンクの父は、貧しい民たちの医者だった。
母と姉は、ムンクが幼少のころに病(やまい)でなくなった。
いつも、生への不安に絡みつかれていたムンクは、絵を描くことでしか救われなかったという。
ある日、フィヨルドの海に沿った道を、ムンクは友人たちと歩いていた。
そのとき、自然をつらぬく、終わりのない叫びが聞こえたという。
思わず立ち止まり、耳を塞いだ。
その叫びを聞くには、ある「感度」が必要だったのかもしれない。
ムンクの精神と、何ものかが共鳴したのかもしれない。
それが、世界中のひとびとの、苦悩、不安、怒り、孤独の叫びだったとしたら、しかも時代を超えて聞こえてくるものだったとしたら、これほどおそろしいことはない。
エドヴァルド・ムンク「叫び」1893年