
「謎解きフェルメール」小林頼子・朽木ゆり子著(新潮社)では、フェルメールの贋作者として歴史に名を残すハン・ファン・メーヘレンの絵をいくつかみることができる。
それらは、フェルメールに似せた単なる贋作ではないような気がする。
メーヘレンという「作家」の手による、独特の世界観がある。
そうでなければ、オランダ美術史界の重鎮だったアブラハム・プレディウスや、ゲーリングらを欺くことはできなかったと思う。
しかしメーヘレンの絵は、どこか死を感じさせるような無気味なふんいきがある。
フェルメール作品の鑑定は難しいという。
真贋について、研究者のあいだでも、議論の定まらないものがある。
初期のフェルメールは古典的な物語を題材にしている。のちに、市民の生活を描くようになった。
同じフェルメール作品でも、物語画と風俗画では大きな違いがあって、このことも、鑑定を難しいものにしているという。
フェルメール自信の手になる真作と同時代の画家が描いた非真作があり、さらに意図的に作られた贋作が入り乱れているのである。
メーヘレンは「キリストと悔恨の女」という絵を描いた。
これをフェルメール作品であると偽り、ナチス・ドイツの国家元帥で、美術蒐集家でもあったゲーリングを欺いたのである。
メーヘレンは、国家の財産をナチスに売ったとして起訴された。自分の作品であると告白したが、容易には信じてもらえず、法廷で実際に絵を描いてみせたという。
「謎解きフェルメール」ではフェルメールの生涯をたどりながら、全32点の絵を紹介している。それぞれの絵に込められた寓意なども綴られる。
フェルメール独特の、光と構図の秘密とされる「カメラ・オブスキュラ」についての解説もある。「カメラ・オブスキュラ」とは初期の写真機のこと。
フェルメールは、レンズを通して見た光景をもとに描いたのではないかといわれている。
本書では、CGによる構図の分析を行い、「カメラ・オブスキュラ」を実際に使ったのかどうかを検証している。