
芸術が時代を先取りするのかどうかはわからないが、少なくともある種の芸術家たちは、時代の底の方から吹いてくる風を感じるのに違いない。そうして生まれた芸術が、さらに時代の空気を創っていくのかもしれない。
マリー・アントワネットの時代、享楽的な貴族趣味のロココ様式を否定する、のちに新古典主義と呼ばれる芸術の潮流が生まれたといわれる。
それは、ギリシャ・ローマ時代の知的で論理的な観察を模範としたらしい。
緻密な描写、理想的な人体の再現といった古典様式の再評価である。
新古典主義の流れは、フランス革命からナポレオン帝政へと、時代の空気が変化する中で広がっていったといわれる。
ドミニック・アングルは、新古典主義を代表する画家である。
古典様式を超える、新しい美意識の創造があった。
同時代に対立したロマン主義の画家ドラクロアの「色彩」に対し、アングルは「線」にこだわったといわれる。
描かれた女は「背骨の椎骨が普通の人間より3本ほど多い」と批判されたらしいが、女のくねった背中がおそろしく悩ましい。
官能的な曲線の創造である。
オダリスクとは、宮廷のハレムに暮らす女たちのこと。
かつて、この世の奥深くに咲いていたらしい、妖しい花の曲線。
「グランド・オダリスク」1814年
ジャン=オーギュスト=ドミニック・アングル Jean-Auguste Dominique Ingres
1780-1867年,フランス