
11月2日付のニューヨークタイムズ紙によると、ジャクソン・ポロックの「No.5,1948」という作品が、絵画取引史上最高額となる約1億4000万ドル(約163億8000万円)で売買されたらしい。
ジャクソン・ポロックは、抽象表現主義の代表的な画家といわれる。
その創作手法は、アクション・ペインティングと呼ばれた。
先行するシュルレアリストたちの影響を受けながらも独自の表現を求め、ドリッピングという「垂らしの」技法を深めた。
筆に絵の具を含ませてカンヴァスに垂らしたり、振りつけたりする。あるいはペンキを缶から直接垂らす。そして砂や異物を塗り込んだり、押しつけたりする中で、次第に濃く深い、独特のマティエールが堆積されていく。
たとえばフロイトの理論に傾倒したダリは、独自の「偏執狂的批判的方法」によって、無意識の世界のビジョンを示そうとした。
それは、燃える麒麟であるとか、溶けた時計であるとかの不思議なビジョンだったが、具象的であり、とりあえず何が描かれているのかはわかった。
しかし、ポロックの場合は物のかたちがない。模様のようなものが抽出された。
ポロックの絵は無意識のイメージの滴りか、それとも計算された画家のアイデンティティの表現か。
それはどちらでもいいと思う。
創作という行為自体が、自己の無意識、あるいはユングのいう集合的無意識との対話と考えることもできるからである。その表現が面白いか否かも、無意識にまで訴えかけてくるかどうかにかかっているのかもしれない。
なんだかわからないが、もの凄い表現。
おどろおどろしい無数の人間の業のようなものが、カンヴァスに堆積しているような感じがする。
ポロックの絵のインパクトがあまりに凄まじいので、記憶に深く刺さり、ドリップされた絵は、すべてポロックの亜流に見えてしまうのである。
「Number 8」1949年
ジャクソン・ポロック Jackson Pollock 1912-1956年,アメリカ