雨を描いたヨーロッパ絵画は少ない。
雨を描くことによって何事かの詩情を込めるという手法は、映画の時代に入って使われるようになったように思う。
日本の浮世絵には、よく雨が描かれている。
ゴーギャンの手ほどきを受けたポール・セリュジエは、浮世絵のなかにある雨と女と詩情とでもいった、湿気のあるテーマに惹かれたのかもしれない。
セリュジエの「にわか雨」は、鳥居清長の「雨中湯帰り」を想わせる。
清長も、鳥居派のなかでは異種ともいえる八頭身で肉付きの良い女を描いている。
傘や建物には輪郭線が描かれ、浮世絵流もしくはゴーギャン流のクロワゾニスムの影響が見られる。
「自然に輪郭線はない」
と言ったのはレオナルド・ダ・ヴィンチだが、クロワゾニスムにおいては事物の輪郭線をくっきりと描く。
全体にそれほど強い色づかいではないが、色面の対比がここちよく感じる。
「にわか雨」1893年
ポール・セリュジエ Paul Serusier 1864-1927年,フランス