2006年11月30日

ルネ・マグリット「恋人たち」



たとえば恋人を持ったことのない人は、恋人という言葉を聞いてどんな顔を思い浮かべるのか。
あるいは幼い頃に母を亡くし、顔を思い出せない人の、心の中の母はどんな顔をしているのか。

マグリットの場合、13歳の頃に母親を亡くしたといわれる。
母は家の近くの川に入って死んだ。数週間後に発見された母の顔は、ぺったりと夜着に覆われていたともいわれる。
真相はわからないが、悲しすぎて母親の顔を思い出したくない、あるいは思い出せなくなったのかもしれない。
シュルレアリスムの画家は深層のイメージを抽出し、表現するといわれる。
マグリットが、人物の顔を隠した絵をよく描いているのは、心の奥底にあるもののせいだともいわれる。

あるいはこの絵は、恋愛そのものの、詩的なイメージの表現なのかもしれない。
恋人たちは、いつも「互いの素顔を覆い隠している」のである。
恋人たちには、それぞれの秘め事があるのかもしれない。

さらに、イメージを固定しない、マネキンであると考えるのも自由だろう。
マグリットが決定的な啓示を受けたといわれる、デ・キリコの絵にもマネキンはしばし登場する。
あるいは遊園地によくある、顔の抜けた看板とでも考えてもみる。
恋人といっしょに顔をはめ込んで写真を撮るやつである。

恋人のイメージは、見る人によって辛くも楽しくもある。
マグリットの布に覆われた「恋人たち」の素顔は、悲しくもあり、嬉しくもあるのかもしれない。

「恋人たち」The Lovers.1928年
ルネ・マグリット Rene Magritte 1898-1967年,ベルギー
posted by アートジョーカー at 09:25| Comment(1) | Rene Magritte | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月29日

ルネ・マグリット「人の子」

The Son of Man, 1964

聖書によると、イエスも自分を「人の子」(The Son of Man )であると語っていたらしい。

人間には原罪があるという。
神は、エデンの園にある様々な木の実を食べることを許していたが唯一、善悪の知識の実だけは食べることを禁じていた。

「神は知識の実を食べて世界を創造する方法を知ったのですよ」
アダムとイヴは蛇にそそのかされ、神の命にそむいて禁断の木の実を食べる。
二人は裸を嫌い、無花果の葉を体に巻くようになった。そしてエデンの園から追放された。
アダムとイヴが知識の実を食べたことで、その子孫たち、すなわち人間は、永遠の生命を失ったとされる。
人間は知識を育て、やがて死ぬ存在となった。

俗説では、禁断の木の実は林檎とされる。
マグリットの「人の子」に描かれた男の顔は林檎に隠れて見えない。
誰とも特定できない、禁断の木の実を食べた「人の子」のひとりなのかもしれない。

「人の子」The Son of Man 1964年
ルネ・マグリット Rene Magritte 1898-1967年,ベルギー
posted by アートジョーカー at 04:54| Comment(0) | Rene Magritte | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月27日

エゴン・シーレの描く肉と骨の魅力

Girl Standing

泣きながら描かれたような女の線の魅力がある。
エゴン・シーレの絵は、身を掻きむしるような文学、それも死に絶えた私小説という感じがする。

貧相な体だが、女の肉と骨の魅力がある。
絵に匂いがあるとすれば、(なま)の女の濃い体臭。
シーレのデッサンは、血と肉をなすりつけるようなデッサン。
シーレにとって筆を走らせることは、女の体を撫でることと同義だったのかもしれない。

たとえばクリムトの描く女が黄金の光を身に纏った「陽」とすれば、シーレのそれは女の内部に棲む懊悩を抽出した「陰」なのかもしれない。

「モデルの女は肉を抉られ骨と皮を晒し、画家自身も人に見せられない煩悩を晒す」
とでも表現したくなる。

Girl Standing
エゴン・シーレ Egon Leo Adolf Schiele
1890-1918年,オーストリー 
posted by アートジョーカー at 04:28| Comment(0) | Egon Schiele | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。