2006年07月29日

ルオー「老いたる王」

Old KingOld King

黒く太い輪郭線の間から光が漏れて王の力強い姿が浮かび上がってくる。
老いた王が最後の気力を漲らせているかのようだ。

輪郭線はステンドグラスの枠を思わせる。
ルオーは職人が窓にはめる真鍮の枠を組むように、輪郭線から先に描いたらしい。
その向こうから光が漏れてくるようなイメージで色を塗っていく。
少年の頃にみた中世の色ガラスの美しさに近づくまで、神の光を再現するまで、何度も塗り重ねていく。

ルオーは完全主義者だったようだ。
職人気質だった。
ルオーの悩みは光の表現だったのかもしれない。
ステンドグラスは人間と自然の光との共作であり、教会という空間との共作でもある。
いわばその異種の感動をキャンバス上に描こうとしたのかもしれない。
ルオーはなかなか絵を「完成」させようとしなかったようだ。

画商のボラールはそのことをよく理解していたらしい。
七百点以上の未完の絵を、いつの日にか「完成」させることを条件に契約をした。
しかしボラールが急死することで、その遺産の相続人が絵の受け渡しを要求した。
ルオーは拒み、裁判を起こした。
未完のまま渡すことは画家の良心がゆるさないということだったらしい。
ルオーは勝訴したが、残りの人生をすべて使っても「完成」にはとうていおよばないと悟ったようだ。
三百点以上の未完の絵を焼却したという。

ジョルジュ・ルオー Georges Rouault 1871-1958年 フランス
posted by アートジョーカー at 04:37| Comment(1) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月27日

ルネ・マグリット「ピレネーの城」

La Chateau des PyreneesLa Chateau des Pyrenees

なぜだかはわからないが、題名はピレネーの城である。
ピレネーの城という言葉から、ふとザビエル城を想った。
日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルの生まれた城である。

ピレネー山脈はフランスとスペインを分ける山々である。
イエズス会を創ったイグナチウス・ロヨラもザビエルも、この山麓に古くから住むバスクの人だった。
バスク人は不思議な民族で、言語もヨーロッパのものとは異なり、その起源は謎とされる。
ヨーロッパ人にとってバスク語は、悪魔でさえ嫌がるほどの難しい言葉らしい。

ピレネーの山深くには、中世そのままの修道院が残る。
麓に点在するバスクの町は、おとぎ話の中にあるかのようなたたずまいである。
ピレネーそのものが近代社会という空間から離れ、異世界を浮遊しているともいえる。

ザビエルは、世界にキリスト教とヨーロッパの文化を伝えるために出発した。
万里の波濤をこえながら、ザビエルが城ごと日本にやってくるようなイメージを感じた。

「ピレネーの城」La Chateau des Pyrenees
ルネ・マグリット  Rene Magritte 1898-1967年,ベルギー
posted by アートジョーカー at 06:54| Comment(0) | Rene Magritte | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月19日

マグリットの「誘惑者」

mg.jpeg
誘惑者

帆船に海が映り込んでいるのか。
あるいは空が帆船のかたちに切り抜かれて、そこに海の水が流れ込んでいるのかもしれない。
なんだか惑わされそうな絵である。

ステルス戦闘機の技術を思い出した。
ステルスのアイディアには強力な電磁波を発生させて光を曲げるものや、空の風景を機体に映し込んで実体を見えなくするというものがあった。
いずれにしても敵を惑わせるものである。

マグリットは自身を画家ではなく詩人であると言っていたらしい。
船のかたちに切り抜かれた空間の奥には別の世界の海がひろがっているのかもしれない。

ルネ・マグリット  Rene Magritte 1898-1967年,ベルギー
posted by アートジョーカー at 08:12| Comment(0) | Rene Magritte | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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