
黒く太い輪郭線の間から光が漏れて王の力強い姿が浮かび上がってくる。
老いた王が最後の気力を漲らせているかのようだ。
輪郭線はステンドグラスの枠を思わせる。
ルオーは職人が窓にはめる真鍮の枠を組むように、輪郭線から先に描いたらしい。
その向こうから光が漏れてくるようなイメージで色を塗っていく。
少年の頃にみた中世の色ガラスの美しさに近づくまで、神の光を再現するまで、何度も塗り重ねていく。
ルオーは完全主義者だったようだ。
職人気質だった。
ルオーの悩みは光の表現だったのかもしれない。
ステンドグラスは人間と自然の光との共作であり、教会という空間との共作でもある。
いわばその異種の感動をキャンバス上に描こうとしたのかもしれない。
ルオーはなかなか絵を「完成」させようとしなかったようだ。
画商のボラールはそのことをよく理解していたらしい。
七百点以上の未完の絵を、いつの日にか「完成」させることを条件に契約をした。
しかしボラールが急死することで、その遺産の相続人が絵の受け渡しを要求した。
ルオーは拒み、裁判を起こした。
未完のまま渡すことは画家の良心がゆるさないということだったらしい。
ルオーは勝訴したが、残りの人生をすべて使っても「完成」にはとうていおよばないと悟ったようだ。
三百点以上の未完の絵を焼却したという。
ジョルジュ・ルオー Georges Rouault 1871-1958年 フランス