2007年07月09日

エッシャー「バルコニー」

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バルコニー


江戸川乱歩の小説に「鏡地獄」というのがある。
幼い頃から鏡の持つ魔力にとり憑かれていた男がいた。
男は親の遺産を相続したあと、大金を投じて内側が鏡となった奇妙な球体を作らせる。
そして電球を抱いて球体の中に閉じこもるのである。

球面鏡に映し出された光景は、奇妙に歪んでいる。
空間が歪んで、正面からは本来見えない部分まで見えてくる。
エッシャーも球面鏡に魅せられた人で、球面鏡に映った自身の姿を描いた「写像球体を持つ手(球面鏡の自画像)」という作品もある。
「バルコニー」は地中海に浮かぶマルタ島の街を描いた風景画らしいが、建物の中心が球面鏡に映し出されたように奇妙に歪んでいる。正面から描いているのに建物の側面や上面も同時に見える。

空間の歪みといえば、アインシュタインの重力の捉え方を思い出す。
ニュートンの重力方程式における重力の姿は、全方向にむかって直線的に作用する(引っ張る)というイメージだが、アインシュタンのそれは時空の歪みとして記述される。

たとえば太陽など巨大な重力を持った物体は周囲の時空を歪める。
時空が歪められているから物(地球など)は歪みにそって落ちてくるし、そこを通る光も曲がる。
といっても実際には光自身は曲がらず、曲がった空間の中をまっすぐ走ってくるのである。

重力場は空間の曲率で記述される。
つまり曲率が高いほど強い重力場となる。強い重力が周囲の空間を曲げる。
あまりに空間の曲率が高くなると球体のように空間が閉じ、光も脱出できなくなる。
これがブラックホールである。
こうした空間では、もしかすると自分の背中が見えるのかもしれない。

「バルコニー」
マウリッツ・コルネリス・エッシャー Maurits Cornelis Escher
1898-1972,オランダ
posted by アートジョーカー at 02:50| Comment(44) | M.C. Escher | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月04日

エッシャー「天使と悪魔」

:
天使と悪魔

宇宙を天使で満たすことはできない。
天使の隙間には、必ず悪魔が存在する。
宇宙を悪魔で満たすこともできない。
悪魔の隙間には、必ず天使が存在する。

天国と地獄は表裏一体のものであり、天国を見ようとすれば天国だけが見えるし、地獄を見ようとすれば地獄だけが見えてくる。
天国と地獄は、そこに同時に存在しているのである。

天使と悪魔が円の端に行くほど小さく高密度となって見えるため、この文様が無限に敷き詰められているような錯覚をおぼえる。
平らな紙の上(平坦なユークリッド空間)に描かれた双曲空間。
実は、この円内に存在する天使と悪魔の文様はすべて同じ大きさであると考えられ、たとえば、いま端の方に小さく見える天使や悪魔のいる場所から見ても、この絵と同じパターンが見えるはずなのである。

実際の宇宙にも中心がないという。
宇宙のどの位置に立っても、同じ景色が見えるらしい。

「円の極限4(天国と地獄)」
マウリッツ・コルネリス・エッシャー Maurits Cornelis Escher
1898-1972,オランダ
posted by アートジョーカー at 15:41| Comment(3) | M.C. Escher | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月24日

ポール・セリュジエ「にわか雨」

po38.JPG

雨を描いたヨーロッパ絵画は少ない。
雨を描くことによって何事かの詩情を込めるという手法は、映画の時代に入って使われるようになったように思う。

日本の浮世絵には、よく雨が描かれている。
ゴーギャンの手ほどきを受けたポール・セリュジエは、浮世絵のなかにある雨と女と詩情とでもいった、湿気のあるテーマに惹かれたのかもしれない。
セリュジエの「にわか雨」は、鳥居清長の「雨中湯帰り」を想わせる。
清長も、鳥居派のなかでは異種ともいえる八頭身で肉付きの良い女を描いている。

傘や建物には輪郭線が描かれ、浮世絵流もしくはゴーギャン流のクロワゾニスムの影響が見られる。
「自然に輪郭線はない」
と言ったのはレオナルド・ダ・ヴィンチだが、クロワゾニスムにおいては事物の輪郭線をくっきりと描く。
全体にそれほど強い色づかいではないが、色面の対比がここちよく感じる。

「にわか雨」1893年
ポール・セリュジエ Paul Serusier 1864-1927年,フランス
posted by アートジョーカー at 12:53| Comment(1) | Others | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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